2017年11月26日日曜日

真空管の話

 昨今のオーディオはデジタルアンプ(高性能でクリーンないい音)と小型スピーカー(小口径低歪みユニットと曲線エンクロージャーでスマートな音)とイヤフォン(驚くほど広帯域、高分解能)の時代に入っております。

 都心のマンション住まいには場所も取らず、家族の同意も得られやすく(爆)、大画面液晶ディスプレイと両立する、まさにジャストフィットな構成であります。

 ハイレゾ音源の高音質録音ソースを再生すると、各音源が整然と並んで立体的なステージを構成して、そのスムーズな音空間に満足であります。まさにハイレゾハイファイの悦楽であります。

 ところが それだけ だとなんとなく飽きてくるのです。ライブでの熱狂、身体に響くライブ感のような躍動感はボリュームを上げてもなんとなく足りない。イヤフォンで大音量で再生した方がライブに近い躍動感を得られます。ところが同じ音源の再生であっても、小型スピーカーからの再生では迫力や没入感は今ひとつだったりします。

 さらに、ライブで聴く肉声のボーカルのすばらしさ(ボーカリストの体調が良くて、ホールが極上であった時に聴かれる生の美声)やアコースティックな楽器の何とも言えない余韻、響きを聴くと 我が家のオーディオシステムはやや音が乾いているのかな?と思うことも・・・

 そうしたギャップを埋めるために(?)こだわりのある層はいろいろとオーディオ機器に手を出して行くわけでありますが、昨今の傾向として興味深いのは真空管(管球)アンプと高能率スピーカー熱であります。どちらもかなりニッチではありますが、元気があります。(さらにアナログレコードも人気)

 真空管アンプは、低出力・大歪み・大発熱・狭帯域(涙目)と、最近のデジタルアンプの真逆を行っているのでありますが、なぜか音がいい といいますか、音の悪い管球アンプはとっくの昔に淘汰されておりまして、きちんとしたメーカー、ビルダーのアンプで聴くとデジタルアンプに無い何か(ものの哀れか余韻か歪みか)が感じ取れるのです。

 例えとして良いかは判りませんが、デジタルアンプの初期値は醸造用アルコールやリキュールで 真空管アンプは生酒のような違いがあります。

 デジタルアンプの基はオペアンプとパワー素子の組み合わせなので、各構成素子をシンプルに組み合わせて素の音を聞くと超ハイファイで濁りのない無味な世界です。高い帯域に優れた性能を発揮する一方、どうしても分析的でクールな音になりがちです。また、単一の増幅素子の特性としては、それほど良好ではなく、ネガティブフィードバックをかけるのが基本で、それによって低歪みにして、比較的大規模な回路を構成しています。複雑な構成になるため、設計が甘いと(高周波特性が良すぎるのか、スイッチングの際のパルスがどこかで悪影響するのか)何とも言えない違和感のある歪みや付帯音が混入してしまいます。(電源やケーブルやアースや微振動などに弱い気がします)
 高級デジタルアンプ(特にハイエンド)はこれに様々なチューニングを施して芳醇な音世界(高級白ワイン?)を実現しています。メリットとしては大電流出力が可能なので昨今の低感度かつ凝ったネットワークの入ったSPの駆動には長けています。

 一方真空管は素子の特性にある程度の帯域しかなく、特に高周波特性は芳しくないのですが、可聴帯域は十分確保しております。高電圧で電子ビームを電極にぶつけるという何とも大らかな増幅を行っているので、半導体と比べて素子単独の特性はむしろ良好で、あまり大きな手を加えなく(ネガティブフィードバックなしでも)ても使えるという素性の良さがあります。素子自体が大きく、高周波は減衰または帯域外なので、防振、電源やアース線の引き回しに過剰な気遣いは必要ないというメリットがあります。

 さらに真空管アンプは酒に例えると濁り酒から淡麗大吟醸まで、多種多様性があり、海外製の球まで含めるとワインのような、クラフトビールのようなバラエティーがあり、楽しめます(もちろんあまり美味しくないものも時々ありますが・・・)

低出力、雑多、多様性といったものを 許容できれば、真空管アンプは自分にぴったりの音を探すことができるので、趣味としてはかなりのものであります。

 現在、真空管はギターアンプ用に製造されているものと、一部のオーディオ用に製造されているものを除くと絶滅危惧であり、在庫の球はじわじわ減っています。ただ時に人気な球は復刻さえることもありますので、球が完全になくなることはなさそうです。

 球の差し替えだけでも音の変化が楽しめます(球転がし)。この音の変化は、デジタルアンプの素子の差し替えよりも格段に楽しい世界です。

 特におすすめは、3極管で、構成がシンプルなので良い音がします。2A3も300Bも良いですが、300A(ほぼ絶滅種)に近いと言われる、VT52は一度は聴いた方が良いと思います。最近はVT52アンプが製造されていますので、敷居はだいぶ低くなりました。出力は少なめですが、300Bよりも音は良いと言うのが多くのベテランの意見です。私も(ブログには書いていないです)それなりに球アンプを遍歴しましたが、VT52に至り満足し、これ以上の探求は不要と感じ、聴感上もっとも重要な中域ドライバー用のアンプとして不動の地位を占めております。

 真空管アンプは低出力なので、組み合わせるスピーカーには能率などへの配慮が必要です。